フィールドワーク行ってきました
こんにちは。ガーナ派遣生のMです。更新が滞りまくっててすみません。
ガーナは派遣期間が2か月と短いため、他の派遣生のようなガッツリの研究はできません。ガッツリの研究は日本でやっているので、ガーナは研究というより“アフリカでしかできないような経験をする期間”のような位置づけです。私は野口記念医学研究所の寄生虫部門にお邪魔しているのですが、そのトップの先生がentomologistでいらっしゃることもあり、主に蚊を用いていろいろしています。このたび8/18~23の6日間、北部にあるMole National Parkへフィールドワークに行ってきました。今回はその様子についてお話ししようと思います。長くなりますがご容赦ください。
我々が暮らすアクラは南部にあるため、北部に行くにはガーナをほぼ縦断しなくてはなりません。往路で丸一日消費します。早朝に出発し、悪路を車に揺られること12時間弱、目的地に着いたときにはすっかり日も暮れ全身バッキバキになっていました。苦行のような一日でした。
今回の旅の目的は蚊の採集です。捕まえた蚊をアクラに持ち帰って種類を同定し、保有しているウイルスを検出していきます。ということで到着してまず蚊の成虫を捕獲するトラップを設置しました。蚊の好きなにおいを出す物質を置き、網に誘い込んで捕まえるのですが、これが何のにおいなのかというと人間の足です。くさい。トップの先生(RAに向かって)「このくさいやつ無くなったらきみの靴下使うからね!」。この罠をしばらく放置します。Anopheles(ハマダラカなど)とAedes(ネッタイシマカなど)が主なターゲットで、前者が夜行性、後者が昼行性です。一晩放置するとAnopheles、半日放置するとAedesが捕れます。滞在中に昼夜各2、3回ずつくらい罠を仕掛けたのですが、運が悪かったのか天気のせいか結局一度も捕獲できませんでした。人生そんなこともあります。
成虫用トラップのご様子。ファンを回して近づいた蚊を吸い込み捕獲するというしくみ
蚊の成虫だけでなく幼虫の採集もしました。いわゆるボウフラです。そのへんにある水たまりのふちとか積み上げられているタイヤに溜まった水とかにいっぱいいるので、おたまですくってバケツに入れていきます。この積まれたタイヤはガーナ各地の道端でよく見られますが、雨水がたまって蚊の繁殖地になってしまうためけっこう問題になっています。
トラックのタイヤ。タイヤに限らずごみは基本そのへんに放置なので、道は正直非常に汚いです。
国立公園内には居住区があるのですが、家々を巡って水瓶やらドラム缶やらニワトリ小屋の水やり皿やらを見せてもらい、ボウフラがいたら捕らせてもらうということもしました。これを育て、サナギから成虫になったところを液体窒素で凍らせて保管します。ボウフラも種類によって意外と見た目が違うのですが、ボウフラより成虫のほうが種ごとの特徴がはっきりしているので同定がしやすいんだとか。なので実験には主に成虫を用いるそうです。ちなみに蚊のサナギは動きます。捕まえようとするとめちゃくちゃ逃げるので「サナギのくせに…」という気持ちになります。
これはボウフラ。ボウフラもめちゃくちゃ動く
サファリツアーも行きました。ゾウをはじめ、サル各種、ホロホロ鳥(七面鳥のなかま、おいしい)、アンテロープ(シカ)、イボイノシシ(プンバァ)、ヤギ(おいしい)などがいます。キリンとかライオンとかアフリカらしい動物が見たい人は東に行きましょう。
ゾウの5匹家族。2,3回出会いました
サファリツアーといってもあくまで目的はボウフラ採集なので、道中水たまりを見つけたらボウフラを探していきます。RAがぬかるみにはまって抜けなくなったりO君がサルに威嚇されたりしててかわいそうでした。ちなみにこのサルはBaboonと呼ばれる種類なのですが、人間のすぐ近くまでやってきます。食べ物を探して民家に入り込んだり車を荒らしたりもします。一度小学生ご一行がバスで遠足に来ていたのですが、駐車場に止めていたそのバスのドアがちゃんと閉まっていなかったようで、バスが無人になった隙にドアをこじ開けて侵入し、荷物を漁っていたということもありました。腕力がすごい。居住区でも普通にそのへんを歩いていました。塀の上に座ってたり車のボンネットに乗ってたり。
サル。たぶんヒトを舐めてると思う。ポーズとってた
ところで今回のフィールドワークの動機は「ガーナにおけるアルボウイルス(Arthropod-borne viruses: 節足動物媒介ウイルス)のリスクの実態を調査する」ことです。アルボウイルスには数多くの種類がありますが、その中で蚊を媒介してヒトからヒトに伝播するのがチクングニア熱、黄熱、ジカ、そしてデングです。今回捕獲対象にしているネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)はデングウイルスの主なベクターなのですが、西アフリカにおいてデングの保因宿主となるのがサルであり、森林など自然界ではサルと蚊の間でデングの感染が繰り返されています。ガーナの北にあるブルキナファソではデングが報告されていますが、ガーナでは報告されておらず、そもそも調査自体あまり進んでいません。Mole国立公園はガーナ北部すなわちブルキナファソとの国境近くに位置するため、デングも実は出ているのではないか、というのを調査するためこういったフィールドワークを行っています。ただのサファリ目的ではなかったんですね。ということでサルとヒトの距離が近いのはあまり好ましくありません。ウイルス研みたいなこと書いてますね。寄生虫研派遣のはずなのに来てから今まで全く寄生虫を扱っていません。まあそんなこともあります。
6日間のうち往路と復路で各1日、残りの4日を以上のような感じでボウフラを集めて過ごしました。ここからは生活のことをすこし書いてみます。
国立公園内と宿は基本的に圏外でした。宿から公園にいく途中で通る街なら辛うじて通じるくらい。宿は覚悟していたより住みやすかったです(住みやすいの閾値が下がっている自覚はある)。シャワーは水です。トイレの便座は部屋によってあったりなかったり。ベッドバグがいないだけ有難かったです。
公園周辺はレストランもあるにはありますが、高いし朝は開いていないので、朝食は道端の屋台で買っていました。屋台というか、道路脇に台が置いてあってそこでパンや揚げドーナツを売っていたり、道路脇で火を起こしてがんもどきみたいなやつを揚げていたり、そんな感じです。油がすごいですが意外とおいしい。夜も道端で焼いているヤギのケバブを買って食べたりしていました。あんまり臭みもなくてスパイシーなのでビールによく合います。お昼はレストランでフフ(ガーナ代表食の伸びないモチみたいなもの)やTZ(北部発祥の伸びないモチみたいなもの)を食べていました。ガーナ食はスープに炭水化物が浸かっているというのが基本構成なのですが、たぶん皆様が考えているよりおいしいです。帰国してからもたまに食べたくなる気がします。
フフ。スープは牛肉とホロホロ鳥の肉が入っています
TZ。シチューはオクラがいっぱい入ってておいしい
帰路では寄り道をしてイスラムの古いモスクを見たり、滝を見たり、それなりに楽しく観光もできました。が、モスクで子どもたちに取り囲まれて物乞いをされたり、各所で衛生環境の悪さを目の当たりにしたり、楽しいだけでは終わらないアフリカの負の側面も垣間見ました。
フィールドワーク前後でJICA支部訪問や病院見学もしたのですが、いろいろ対策はしているけれども改善までの道は非常に長いんだろうなという印象を受けました。次回このへんについて書ければと思います。
アクラ帰還後は取ってきた蚊の同定方法を学ぶなどしています。今後はPCRによりウイルスの検出をしていく予定です。そのあたりについてはO君が書いてくれると思います。
お付き合いいただきありがとうございました。次回の更新にご期待ください。
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