観光と肝臓

こんにちは。Imperial College London派遣生のきょっきょです。
ロンドンは早くも街路樹の葉が色づきはじめ、だいぶ寒くなりました。

 
…と感じているのは我々日本人だけのようです。

街には未だに半袖マッチョが出没し、ラボでは気温15℃でも扇風機がフル稼働。
仲良くなったラボの工事のおじいさん達と戸外のマーケットへ一緒に昼食に行ったら
「ロンドンは暖かいでしょ」
え!?コート着忘れたこと後悔しているくらい寒いのに…
気温感覚が全然違います。

そ・の・う・え
寒さに耐えられず冬服を買いに行ったら、自分のサイズがない。なんてこった。
確かに日本でも小柄な方(医学科最小)ではあるけれど、着る服が本当にない。
セーターを試着したらXSなのに襟は肩より大きく寝袋状態。
結局、子供用(10-12歳用)を購入しました。悔しい。


前置きが長くなりましたが、今回はこんな話をします。
1.観光の話
2.研究の話その2
3.医療制度の話(mintくんの続編)
2,3は堅めの話(しかも長い)ので、軽めの話だけが良い人は1だけ読んでください。


1.観光の話
丸々1週間、夏休みに地中海を満喫しましたが、ヨーロッパはまだ広い。
8月末に3連休(英国ではBank holidayと言います)を利用してパリに行きました。
ご飯がすごくおいしかったです。

パリと言えばここ。

 
登るとこんな眺めです。
ロンドンと比較すると、雰囲気がちょっと違います。
↓比較画像(ロンドン St Paul Cathedralからの眺め)

ついつい珍しさにイギリス外の話ばかりしておりますが、普段の週末はロンドン近郊で過ごしています。

 Greenwichにて。
将来のグローバル人材。世界をまたにかけるには、まずは形から。


 Hampton Court Palace.
ややマイナーな郊外のスポットですが、ラボのイギリス人スタッフ曰く"Very British"な場所。
有名な幽霊スポットでもあるそう。おお怖っ。

最近はロンドン界隈をうろうろしていた我々ですが、来週末はEngland (UKじゃないよ)を飛び出し〇〇へ行くので、その話は次のしまDくんの投稿、またはInstagramをお楽しみに。


2.研究の話その2
1日のスケジュールは以前とさして変わらずLaptopとずっとにらめっこをしているため、今回は研究内容(特に研究背景)についてお話します。

取り組んでいるテーマは主に「B型肝炎の治療適応判定ツールの解析」。
作業内容をざっくり説明すると、関連する全ての論文の著者に連絡を取り、シェアしていただいた匿名データ何千人分について色々な解析を行っています。

B型肝炎、感染症の中ではマイナーなイメージかもしれません。
しかしB型肝炎ウイルス感染者数はHIVやマラリア患者より実は多く2億4000万人*。特に途上国での罹患率が高い疾患であり、多くの人が若くして命を落としています。
このB型肝炎対策が抱える大きな問題の1つが「治療の必要性(治療適応)の判定」です。

現在の治療適応判定では、主に肝障害の程度の検査(超音波検査や生検など)、血中ALT、血中HBV-DNAの測定により、肝臓のダメージの程度、ウイルスの活動の程度を判断します**。しかしこれらの検査の中には高価なものや高度な技術・施設を要するものもあり、途上国でこの通りに治療適応判定を行うことは困難です。そのため、せっかく疾患が見つかっても多くの人が治療適応判定の段階でドロップアウトし治療に行きつけていないのが現状です。

と、ここまで読んで「治療の必要性を判定しなくても、全員治療すれば良いのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、残念ながらB型肝炎ではそうはいきません。
現在の治療薬はウイルス自体は殺さず活動を抑えるだけであるため一度始めると中断の判断が難しく、何十年といった長期の治療となるケースも珍しくありません。大きな負担となる治療を治療不要の人にするわけにはいきません。
B型肝炎ウイルス感染患者の中でも治療を必要とするのはごく一部であるため、その一部の人に焦点を当てて治療の負担を最小限にしつつ、治療が必要な人を漏らさず確実にカバーすることが鍵となります。

B型肝炎の治療適応判定へのアクセス、ひいては治療へのアクセスをより良くしたいという思いのもと、とある安価で簡易な検査法についてDNA量判定の代替となりうるかについて研究を行っています。


最後に研究室について少し。
テツ&コリンのラボと違い、幸か不幸かきょっきょのラボでは飲み会はほとんどありません。Hepatology departmentだから肝臓を大事にしているのでしょうか。
他のスタッフとは全く違うプロジェクトをやっているため研究自体ではあまり関わる機会がありませんが、いつも何かと気にかけていただいています。
休日の行先の半分はスタッフの案ですし、机の前で焦げているとお菓子をくれます。
最近お菓子をもらう頻度が増えてきました。
天高く馬肥ゆる秋。私も肥ゆる秋になるのではとヒヤヒヤしています。


↑ロンドンの秋空。ロンドンには空港が多いので、空には飛行機雲が絶えません。
飛行機大好ききょっきょとしては、最高の眺めです。


* Global Hepatitis Report 2017. Geneva: World Health Organization: 2017. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
**European Association for the Study of the Liver. EASL 2017 clinical practice guidelines on the management of hepatitis B virus infection. J Hepatol. 2017;67:370-398


3.医療制度の話(mintくんの続編)
研究の過程で患者さんのデータを分析することが多いのですが、データだけではなく実際に臨床の現場を見てみたい!とSupervisorにお願いしたところ快諾していただき、肝炎外来や一般的な肝臓内科の外来を見学させていただきました。

イギリス前々回のブログでmintくんがGPの話をしてくれたのですが、今回私が見学させていただいたのはNHS(National Health Service)の病院の外来、つまりGPが診察をした上でより専門的な医療が必要と判断された患者さんが紹介されてやってきます。

ドクターや日によっても差はありましたが、診察自体は基本的には1人15~30分くらい、13.00~16.00頃までぶっ続けに診察をしていきます。事前に日時を予約したうえで来院するシステムのため待合室自体はさして混んでいる印象ではありませんでしたが、受診者はかなり多いです。安定している患者さんについては事前に患者さんの同意を得たうえで看護師(処方も可能。ただし全ての看護師がこの業務を行うわけではなく、advanced nurse practitioner (ANP)という一部の有資格者がこの役割を担います)が診察を行うなど役割分担をしていました。
診察後は各ドクターが専用のレコーダーを使って診察内容を読み上げてレコーディングを行います。その場でカルテに打ち込むと時間がかかるため診療時間中はできるだけ多く診察に使えるようにし、レコーダーで記録したものを場合によっては後ほど文字起こしするそうです。この音声データは院内のみならずGPとの共有にも使われるので、とても大事な作業です。

見学させていただいた中には初診の方も多く、GPからの引継ぎ・GPへの引継ぎにドクターが苦戦している場面(これじゃ何故うちに紹介されてきたのか分からないわ!なんてことも…)も何度か見ることとなり、改めて連携ありきの医療システムであると実感しました。
引き継げる情報量が限られている中で、いかに重要な情報を漏らさず簡潔に伝えるか。
どの国で何をするにしても、一番大事だけれど難しいことだと思います。

また、ドクターが患者さんからの相談や依頼に対し、NHSでの診察では対応できないためGPや他のスタッフとの相談を行うよう勧める場面にもかなり多く遭遇しました。患者さんの問題に最も的確に対応できるスタッフを紹介し引き継ぐ、という意味では見事な連携プレーだと思う一方、患者さんの視点から見れば各職種の役割が細分化されすぎていて分かりづらい場合が多いようにも見受けられました。もちろん全てを単純に明確に表せるとは思いませんが、役割と連携の構図を出来るだけ多くの人にとって理解しやすいようにすることは、職種間の連携と同様に重要であると実感しました。

と、興味深いことがたくさんあったのですが、Clinicを見学して一番痛感したのは自分の知識不足・理解不足でした。
カルテにあふれる略語が分からない、あれその単語何だったっけと思い出している間に診察が進んでいく……自分なりに予習をしたつもりではいましたが知識の幅も深さも足りておらず、もっと事前知識があればもっと吸収できたのにと悔しいです。
自分に発破をかける良い機会となりました。


季節の変わり目ですので、日本の皆様、お身体にお気をつけてお過ごしください。
そして同期のみんな、あと1か月半プロセメ最後の追い込み頑張りましょう!





P.S.

誕生日をラボでお祝いしていただきました。
嬉しすぎてろうそくを挿したまま食べようとしたら、日本ではろうそくを食べる文化だと勘違いされかけました。横着はいけませんね。
帰宅後、派遣生同期や歯学科の友人(とその友達)にもお祝いしてもらい、幸せな1日でした。

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