Computational Neuroscience & Career



(最近MUSEはまった+脳)

とうとう後2週間強で帰国となります。
最後のブログ(?)のつもりで、
今回はプロセメを振り返って、自分の研究テーマである
Computational Neuroscience(計算論的神経科学)に焦点をあてて、
この学問について、またそれを勉強する意味、将来のキャリアビジョンについて語りたいと思います。


1 概要 -Dense reconstruction from sparse data-

簡単にいうとこの分野は脳、神経のモデリングを通じて、新たな理解と知識を得ようという分野です(超ざっくり)。自分もこの分野に携わってほんの半年強しかたっていないのですが、他のウェットの研究とは一味違う研究手法であると感じます。

**これから話すことはEdXのSimulation Neuroscienceに準拠しています。**

何かを説明するとは、どういうことなのでしょう。その何かが何かのテレビ画面だとしましょう。その画面が何の秩序のないノイズだとしたら何のアルゴリズムもなしにただ1ピクセルずつコピーして見せることしかできませんよね。すべてのピクセル、要素をコピーして伝えなければいけません。
一方、なにかしらの決まり、秩序がある画像、例えばそれがバンクシーの絵だとしましょう。
この場合は一つ一つのピクセルが一定の秩序で紐づけられているので、例えば、”レンガ+放射性物質の灰+子供”のように説明できる上、要素要素を意味付けして説明することができます。つまり、すべてのピクセル、データを取り出す必要がなく一定のアルゴリズムに従ってデータを抽出すればいいのです。

これは科学にも通用する考えです。世界はある秩序をもって存在すると考えれば、世界を説明するにはすべてのデータはいらないのです。何かを説明するためには、一定のアルゴリズムにしたがった意味のあるデータを、それが科学の一般的な考え、Sparse dataという考えです。Computational Neuroscienceはこの意味のある”ばらついたデータ”を統合し、理論的に最小単位(神経)を構築し、それらをくみあわせて正確なモデル(神経回路,microcircuit)をつくり脳を説明すること(reconstruction)を目的としています。

このとき重要なのが、ある現象を説明できるようにモデルを作ろうとする、という姿勢はあまりよくないということです。モデリングの基本はBottom-upです。最小単位が正確にモデリングされていればそれらを組み合わせたより大きな構造物でも正しい振る舞いがみられるはずという考えのもと、まずは一番基礎となる最小単位(神経)のモデリングをした後、ネットワークレベルでのシミュレーションを行い、振る舞いを観察します。このステップバイステップの構築の様子をDenseという表現が説明しています。その振る舞いが”無事”現実世界のリアルな振る舞いと一致すれば、”見事”すべてのAssumptionが正しいと分かり、今までは散らばっていたデータ、知識を体系化し、統合することができたことになるのです。しかし、そのような振る舞いが説明できず、失敗した時はどうなるのでしょうか。ここで悲しむ必要はなく、1Assumptionが間違っていた、2予想していたメカニズムとは別にその振る舞いを説明できるメカニズムがあるはず!!、という新しい”知識”が得られます。その教訓をもとに、新たなデータ収集やAssumptionの改善等、モデリング、シミュレーション、バリデーション、データ収集、の繰り返しで、新たな”理解”、新たな”知識”を獲得していくこの循環がこの学問を発展させていると考えています。

このように計算論的神経科学は、様々な研究室、異なる環境で得られた大量のデータを理論的に組み合わせ、”統合”することで包括的な理解を得ようとする学問です(この大量のデータもある意味をもって集められた価値のあるデータである必要がある)。

どうですか、長々と書きましたが、この”統合”こそこの分野の最大の魅力、かつ最大の難所であると考えています。

2 Computational Neuroscienceから得られる2つの恩恵

さて、医学生がこれを勉強するとなにが良いのって話ですが、この学問は医学に対して主に2つの方向で貢献すると考えています。

① 医学の発展
先に述べたように、大量の散らばっている論文、Fragmented dataが存在しているが上手く活かせていない現状に対し、Computational Neuroscienceは神経科学の領域において体系化された知識、理解をもたらすことに貢献すると考えます。各分子機構の関係性や行動への投射メカニズムなど最小単位からより大きなレベルまでの理解が体系的にまとめられることで薬学、Brain-Machine-Interface(Exoskeletonなど)の方向で主に大きな発展が見込めると考えます。

② 医療業界の発展
脳への理解が深まっていく過程で、その知識はただ生物学にだけ応用すればいいというわけではありません。Bottom upから解明されたメカニズムと、AI研究のようにTop downから学習則や認知機能を推測していくことで蓄積されたAssumptionが出会い一致することでよりRobustなAIが誕生するだろうと考えます(Bottom upなんていらない、それらのメカニズムはただのインスピレーションとして使えばいい、という意見もあると思いますが、、)。物事を本物の脳のように統合して認知して学習していくようなArtificial General Intelligenceが誕生すれば、そのようなシステムを道具として使うのか、はたまた一部の人間の考えるように神性をあたえた存在を見たいのか、は倫理的かつ壮大な議論になる(絶対そのような時はくる)と思いますが、いずれにせよ自動診療や研究の論文検索、患者割り振り、画像診断、自動手術などなどHuman sourceの削減、働き方の改革、Precise medicine、むらのない医療に莫大な恩恵を与えることと考えます。

このように工学的、生物学的に大きな貢献を与えるかつこのホットな(自分はそう思いますが、)分野を勉強することは自分が様々な方向から医療に貢献できる可能性を与えてくれる点で非常に有益であると考えました。

*実は留学前は漠然と「プログラミング使いたいなあ」、「ウェットな研究は去年したからなあ、、(研究実践)」、「ラテン楽しそう(笑)」、という感じでこんな深くは考えてませんでしたが、、

3 将来の立ち位置

留学中はもちろん周りは研究者しかおらず、一部は自分の企業もってたり医者の人もいましたが、重きは研究においていて、かつ様々な国から人があふれる研究室でした。プロジェクトメンバーとは毎日のように議論をし、非常に実りのある日々でした。その中で皆さん真摯に脳に対して興味を抱いていらっしゃり、哲学的な話題もふってきたり、またはなんでプログラミングやってるの?!と聞かれたり、自分の人生について見つめなおし、マイルストーンを立て直す貴重な時間であったと感じます。

Computational Neuroscienceの面白さ、可能性を身をもって体験したこの半年間を経て、今もっとも悩んでいるのがどの立ち位置に身をおくかということです。研究に腰を据え、世界を股にかけながら医療を押し上げていくのか、工業寄りAIの開発に携わり導入する側になるのか、それとも医者として働き現場からデータとインスピレーションを得て研究に還元するのか、、

医者という職業そのものに魅力を感じているし、外科医になろうと思っていますが、一方で研究の楽しさを実感してしまったこのプロセメ期間。どちらのモチベーションも高まっていますが、いずれにせよ応用性の幅広いComputational Neuroscienceに関わっていきたいと思ってます。正式なDegreeをとるかどうかはまだ検討中ですが、工業よりのAIも勉強していきながら、自分が楽しく満足できるようなキャリアを探す、または作ることが直近の課題です。

数学、医学、英語など幅広く勉強していく必要がありそうです。医学の外の人脈もつくっていかなくては、、(まずはCBT、OSCE(泣))


最後に

このプロセメ期間は想像以上に色々なものを自分に与えてくれました。
時間の使い方は自分次第、自らの判断がいかに重要なのかに改めて気づかされました。
ここて培った人脈や教訓を大事にしていきたいと思います。
サポートしてくださった皆様、色々迷惑をかけたルームメイト、
今までありがとうございました。

(まだ2週間あるけど(笑))
Chao !!




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